リポジショニングの pitfalls
創薬(wet)アドベントカレンダー 2021 4日目記事。
パンデミックに急いで対応するためになるべく薬を早く使えるようにと、COVID-19 治療薬探索ではリポジショニングを目指した既存薬剤のスクリーニングが盛んに行われた。動態や安全性等が分かっているので、効くのであれば承認へのプロセスがかなりショートカットできるため急ぎの場面では好まれる傾向があるようだ。コロナ禍において数々の既存薬の名前が挙がったのは記憶に新しいだろう。
一方、実際に臨床試験を組んで効果を確認しようとすると、切れ味の良いものはなかなか出て来なかった。もともと今回の標的のために創製された薬は無いので残当ではあるが、in vitro の結果は注意して見ないとアッセイ系で見かけ上効いているだけのものでぬか喜びしてしまうことがあり細心の注意を払う必要がある。
リポジショニングでコロナに効きそうとされ(て結局だめだっ)た薬の多くは大体カチオン性両親媒性薬でホスホリピドーシスの惹起によって見かけ上効いていたのではという話 https://t.co/ysX1K6WaeU
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2021年6月23日
COVID-19 治療薬探索でリポジショニングを目指して盛んに行われたような生化学アッセイでも、化合物の凝集 (や PAINs) が偽陽性を引き起こしていることがよくあったという話。 https://t.co/dwo7jIu9DX
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2021年11月24日
教訓として蓄積しておいて気を付けるようにしたい。
LNP 雑感
創薬(wet)アドベントカレンダー 2021 3日目記事。
今年は創薬シーンで LNP の活躍を表立って目にする機会が急に増えた年だった。核酸医薬は DDS の困難さが長年 大きなハードルの1つだったが、コロナ禍において mRNA ワクチンをこれだけ成功させた立役者の1つは LNP だったといっても過言ではない気がする。
そのほか、研究段階ではあるが遺伝子編集を治療応用する試みにおいても LNP の活用を今年何度か見かけた。
病因遺伝子を遺伝子編集でノックダウンする治療の PoC をカニクイザルで成功させたという報告。
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2021年5月24日
脂質ナノ粒子に adenine base editor 8.8-m (ABE8.8) の mRNA と gRNA を梱包し、静注。標的遺伝子の第1exon-intron境界のアデニンを A→G 編集し、スプライシング不全を起こさせてノックダウンする。 https://t.co/7Evau4ktx9
CRISPR による遺伝子編集をヒトのトランスサイレチンアミロイドーシスに適用した報告。
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2021年6月27日
トランスサイレチン (TTR) を標的とした sgRNA と Cas9 の mRNA を梱包した LNP を静注で肝臓に送達、TTR を indel フレームシフトでノックダウンする。https://t.co/iJ6APv1RXqhttps://t.co/XuMMfo1kKh https://t.co/6HvaJg2hKB
ラボで使えると便利そうだが、LNP 自体の組成や粒径の制御など作り方のノウハウもかなり奥が深そうなので技術のあるところと組まないとなかなか難しいか。
AlphaFoldology
創薬(dry)アドベントカレンダー 3日目記事。
昨年の CASP での無双ののち今年 OSS として公開され、一世を風靡している AlphaFold2。様々な応用や裏技が SNS 上で日々議論され、プレプリントもどんどん出てきている。
本邦が誇るタンパク質計算科学アルファツイッタラー @Ag_smith 氏はいち早く AlphaFold2 の複合体構造予測への応用をツイートで提案し、ツイートが論文に引用されるという事態を引き起こして今や AlphaFold学の国際的第一人者のうちの一人となっている。
AlphaFold2 can also predict heterocomplexes. All you have to do is input the two sequences you want to predict and connect them with a long linker. pic.twitter.com/BhmWcnlQed
— Yoshitaka Moriwaki (@Ag_smith) 2021年7月19日
そんな彼が AlphaFold2 の実装を読み解くために用意したナレッジベース、AlphaFold2 解体新書 がこちら。 www.af2anatomia.jp ※ 私がサーバー提供スポンサー💰
また、AlphaFold2 を使う上での tips 等を議論するためのフォーラムも実は用意してある。 www.alphafolder.jp
Twitter 上でそのままツイートしたり相談したりしたほうが手っ取り早かったりもするので、敢えてフォーラムを使うことで便利に議論が進むかと言うとなんとも言えないが、ツイートだとどうしても記録が散逸しがちなので備忘録用にでも使ってもらえるといいかもしれない。
PROTACs™ の最適化要素
創薬(wet)アドベントカレンダー 2021 2日目記事。 Undruggable とされてきた標的の中には、阻害しようとしてもダメで、病因となる分子自体を消し去らないと解決しないものがある。遺伝子編集でどうにかしようといった試みなども進んできているが、低分子によって標的のノックダウンを惹起しようという Targeted Protein Degradation 技術が近年大変ホットな分野となっているのは皆さんご存じの通り。2019 年には PROTAC™ として初の化合物が治験入りした。
アンドロゲン受容体を分解誘導するPROTAC、ARV-110の構造式がアメリカ癌学会 #AACR21 にて開示された。CRBNをリクルートするためのE3 ligand部分はPomalidomideに1ヶ所フッ素を足したものとなっている。
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2021年4月12日
アビラテロンand/orエンザルタミド不応の転移性虚勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の治療薬候補。 https://t.co/ziW15xBth5
化合物全体の ADMET 最適化が必要なのは当たり前として、構造がざっくり3要素から成るのが PROTAC™ 特有なところで、それぞれ最適化する必要がある。
E3 ligase をリクルートする E3 ligase リガンドの種類: E3 ligase 自体は数百種類あるわけだが、標的組織・細胞で充分働いているものを狙う必要がある。メジャーどころは CRBN, VHL(, IAP, MDM2) 辺り。親和性の高いリガンドが無いと E3 ligase をリクルートできないが、covalent warhead を仕込むことで利用可能な E3 ligase のレパートリーを広げるといった試みもある。
標的タンパク質に結合するリガンド: 表面の凹凸が浅い分子を標的にすることも多いのでここもハードルは高い。
それらを繋ぐリンカー: 生やす位置と長さが degradation 効率に大きく影響する。ternary complex の立体構造を意識する必要がある。
上記3要素から成るのでどうしても分子量はやや大きくなる。細胞膜透過性も必要。「活性は上げる」「物性も良くする」 両方 やらなくっちゃあならないってのが 創薬 のつらいところだな。
創薬ソフトウェアスイート
創薬(dry)アドベントカレンダー 1日目記事。
ウデの立つ方々は自作コードで様々なソフトウェアをゴリゴリ使いこなせばよいわけだが、ゴリゴリ書けない人でもポチポチやれば定型的な作業はできるようになっている商用ソフトウェアスイートが色々あるのでメジャーどころをいくつか挙げておく。
MOLECULAR OPERATING ENVIRONMENT (MOE) www.chemcomp.com
DISCOVERY STUDIO www.3ds.com
OpenEye www.eyesopen.com
Schrödinger www.schrodinger.com
MolDesk (純国産) www.moldesk.com
Cresset www.cresset-group.com
アカデミック版で手頃に提供されているものもあるが、多くは相応の価格で商用販売されておりなかなか手が届かなかったりはする。国内でユーザーコミュニティが発達しているソフトもあるので、使っている者同士で組織を越えて繋がりができることもある。
(ここに挙げておいてほしい推しソフトが他にもあればリプで!)
追記) ワークフロー自動化
Pipeline Pilot www.3ds.com
KNIME (オープンソース) www.knime.com
covalent inhibitor 探索
創薬(wet)アドベントカレンダー 2021 1日目記事。
標的と共有結合するタイプの薬剤は以前からあるが、難しい標的に対して共有結合性薬剤を開発する例が近年増えてきている印象があるのでメモ。 例えば長年 undruggable な難しい標的であった KRAS に対して遂に今年、初の阻害剤として sotorasib が承認されたが、これは KRAS の G12C 変異のシステインに対する共有結合性阻害剤となっている。 標的ポケットが浅く低分子でターゲットしにくいものを共有結合で強引に攻める力技とも言える。
K-RAS (G12C) inhibitor, AMG-510
— 叢雲くすり(創薬ちゃん) (@souyakuchan) 2019年6月7日
システイン残基に対して共有結合を形成する covalent inhibitor だhttps://t.co/xkzXUXhHvf
sotorasib については、アクリルアミド化合物群からスクリーニングした結合化合物をもとに、結晶構造を見ながら活性を上げていったようだ。
実際に結合化合物を探索する際には、covalent warhead と称される反応性官能基を含むフラグメント化合物のライブラリからまずはスクリーニングするのが定石の1つだろう。
市販のライブラリがあるので使ってみてもよいかもしれない。
実験系としては、質量分析によるフラグメントの共有結合の検出や、ハイスループット結晶ソーキング構造解析のような手もある。 共有結合するフラグメントを取得してからの PROTAC との合わせ技なども散見されてきており、難しい標的に立ち向かう際の武器の1つとして扱えるようにはなっておきたい。